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この夏はなつらしくない

梅雨があけても真夏感はなく

いつも決まって夕方になると

雨のにおいがしてきて

少しすると雷と共に雨が降り始める


いくらその日が晴れていても

日が沈みかける頃には

雨雲が雷と手をとってやってきて

空を感傷的な灰色に変えてしまう


次第に降り出した雨は

新緑や大地に吸い込まれ

しとしとと音を立てて

あたりの空気を沈める


遠くのほうでくすぶっていた雷鳴が

突然大きな音をたてて

その空気を引き裂く


霧のようだった雨が

それが合図だったかのように

大きな雨粒へと変わる


モノクロームの映画のノイズのようだった雨が

空から放たれる集中砲火のようになる


窓にたたきつける雨で

景色がステンドグラスのように歪む


地面を跳ね返った雨粒たちによって

ザザーという音が響く


まるでチューニングがあっていない

ラジオのようだ


空全体からフラッシュがたかれた後


少し間を置いて

けたたましい轟音がそのノイズに割り込む


スピーカーが壊れてしまうんじゃないかと

心配になる音量だ


ボリュームを下げればそれまでなんだろうが

自然を前にして人間というのは何もできない


ただその一瞬が通り過ぎるのを

待つことしか出来ないのだ


幸いにもそのような激しい時というのは

そんなに長く続くものではない


いくつものフラッシュと轟音ののち

それらの勢いは弱まり


雨もその攻撃性を潜め

また淡いモノクロームへと戻っていった


相変わらず思いだしたかのように

空が光り遠くのほうで雷鳴が轟くが


それには以前のような破壊力はなく

雨音が奏でるBGMの一部にしか過ぎない…


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脅威が去った後

私は薄暗い部屋のなか

無垢木のテーブルの上のランプのゆれる光と

香の煙の向こうの窓…レースカーテンが引かれた

モノクロームの世界を見入る


見るといっても実際は何も見ておらず

ただボーっとしているだけで


時折何らかの思いなり考えが

その窓からこのもの寂しい部屋を訪ねてくるので

それを何も考えず待っているのだ


相手をもてなそうと紅茶を入れて待っている

カップも上等なものだ


そうしているうちに

外から誰かがこちらを恥ずかしそうに眺めている


ボーっとしていたため

何気なくそれを眺めていたが

ハッとして帰ろうとする“誰か”を呼び止めようとする


呼び止めようとするのだけれども

誰だかわからないので

いそいで走っていきこの部屋に招き入れる


何か気恥ずかしかったのか

よそよそしくするのでこっちまでそんな気がしてくる


相手もそれを察してか

お茶を一口飲んでカップを置き深呼吸する


そしてゆっくりと話し始める

とてものも静かな話し方だ


私は相手の話にうんうんと相づちを打ちつつ

相手の顔であろうあたりに向かって軽く微笑みかける


ランプの光が弱く揺れるためか

または紅茶の湯気越しに相手を見ているためか


私にはその相手が標識の人影を

立体的にしたようにしか見えない


実際そうなのかまた本当の顔があるのか

その匿名性の向こうに何があるのか

見極めようとするのだけれども


分かりかけるころには雨もやんできて

その人影はまたそのモノクロームの世界へと

帰ってしまい


私は雨に濡れて少し艶を増した世界を

何となく眺めている